Hyur-Midlander / Halone
Class:GLADIATOR / LEVEL:07
Location >> X:17.8 Y:21.7
ザナラーン > 中央ザナラーン > ブラックブラッシュ
俺たちは草陰に忍んでいた。
相変わらずザナラーンの日差しは強く、空気は乾燥しているが、そういった環境も、こうしてちょっとした自然の傍に寄れば少し和らぐ。身を寄せている草木は大して大きなものではなかったが、荒涼とした、身を寄せるものが少ないザナラーンの地では有り難いものだ。
しかし、俺たちは涼を取るために草陰に忍んでいるわけではなかった。ひっそりと息を殺し身構えているのは、
「……お、来たな」
見えるか?と、同じように傍らで身を隠している少女……ミィアに声をかける。片膝を立て、いつでも動き出せるよう待機している彼女は囁き声で、
「……大丈夫です、恐らくあのキキルン達も盗賊団の一味でしょう」
この辺りに生息しているキキルンは皆そうですから、そう続ける。
俺たちの視線の先に居るのは、三匹のキキルンだ。このまま進めば、対岸にシラディハ遺跡が建つ(遺跡という名のとおり、殆ど崩壊しているはずなので、建つという表現は正しくない気もするが)川辺へと至る道だ。恐らくは水を求めて向かっているのだろう。実際、彼らの細長い手指にはバケツのようなものが下げられていた。
「腕試し……あのキキルンでいいですか?」
そうミィアが囁く。そう、俺たちは、お互いの腕試しをすべくこうしてキキルンの様子を伺っているのだった。
●
「腕試し、ですか?」
「ああ、さっきちょっと言ったろ? お互いに相手の力量が分かっていたほうが何かとやりやすいかと思って」
確かに、と頷いたミィアは、ウォウォバルがサービスで淹れてくれた食後のお茶を楽しんでいるところだった。話の流れは、それではどうやってキキルン盗賊団を捕縛するのか、というものの続きだ。
「それに、俺が足でまといになるような力量だと、君も迷惑だろ」
「まぁ、それはそうですけど……」
それを自分から言ってしまうのか、とミィアは思う。こうして食事を共にして思ったのは、この青年は本当にただのお人好しなのかもしれない、という事だ。こんな人がウルダハのような腹の底が見えない人間しかいない都市でやっていけるのだろうか……?と思わず心配になってしまうほどに。
「(それともただの世間知らずな人なんでしょうか……)」
先ほどウォウォバルに料理の美味しさ、特にピピラの鮮度が良いと賛辞を伝えた時のことだ。ナイトウがぼそりと口走った「あれがピピラなのか……」という言葉をミィアは聞き逃さなかった。
ピピラという魚は、エオルゼアではかなりメジャーなものだ。いくら鮮魚の入手が難しいウルダハでも流通はしている。まさか、それすら知らないという事は、本当にただの世間知らずなのかもしれない。加えて、
「(食事の作法が丁寧なんですよね、この人)」
ミィア自身は育て親が礼儀作法に煩かったため、そういった事はきちんと身につけてはいるが、世間一般では、そこまで気にされることでは無い。
基本的に、礼儀作法、特に食事の作法においては、その人の地位や品格が上がれば上がるほど丁寧な立ち振る舞いになっていく。もちろんそれが伴っていない人も居るだろうが……それでも、一般的な家庭で生まれ育った人間よりかは丁寧な振る舞いをするだろう。丁寧な所作、穏やかな振る舞い、それだけでその人間がどういった環境で育ったのかを感じ取ることは容易だった。
「(冒険者でこうして食事の作法がしっかりしている人は初めて見ました……)」
中でも冒険者は、そういった振る舞いが粗暴になりやすい職種だ。冒険・戦闘・賞金稼ぎ……それらを生業とする人間ならば、仕方あるまいとミィアは思っていた。しかし、この青年は、全くそういった所作を出さない。もちろん、名家の貴族様のような振る舞いとまではいかないが、中流以上の家庭で育ったかのような作法を本人が意識せずとも出来ている様子だった。もし彼がこちらを騙そうとして、そういった振る舞いをわざとしているのならば、相当な演技派だろう。
それらを踏まえて、ミィアが出した結論は、
「(……ちょっと良いとこのお坊ちゃん……次男とか、三男とかの……)」
流石にそれを面と向かって聞く厚顔さをミィアは持ち合わせていない。ただ、こうして猜疑心を持っていなければ死に直結する職種だ。相手がどういった人間なのか、初対面ではしっかりと見極める必要性が有る。
しかし、だ。とりあえず、こういった詮索は心の奥底に仕舞っておき、ナイトウの出した提案について話し合うことから始めなければ、そう思う。
「それで、腕試しって具体的にどんなことをするんですか?」
「そうだなぁ……近場のモンスターでも狩れたらいいんだけど」
「それでは、ここから南西に行った方にシラディハ遺跡が有るんですけど、そっちの方にしませんか?」
「ああ、どこでも構わないよ、ええと……大きな滝が有る所だよな」
「ええ、そうです。あそこはネズミの巣から一番近い水辺なので、キキルンも居ると思って」
なるほど、とナイトウは頷く。そして、
「ええと、君は格闘士……だよな?」
「はい、そうです。ギルドに入門してから日は浅いですけど……」
「それは俺も一緒だ。一昨日剣術士ギルドに入門したとこ」
はは、と彼は屈託のない笑みを浮かべる。よし、と手のひらで膝を叩き、
「それじゃあ新米同士、行ってみようか」
そう言ってナイトウは椅子から立ち上がった。
●
草陰からゆっくりと立ち上がった俺たちは、音を立てぬようキキルンに近づいていく。基本的にキキルン族は群れで行動する生き物らしく、ああやって数匹だけで行動しているところは珍しいらしい。気づかれればすぐに仲間を呼ばれると言うミィアの言葉に従い、先手を取るべく俺たちはこっそりと彼らの跡をつけていった。
「(……なんか、懐かしいな)」
ふとそう思うのは、同じようなことをした記憶が有るからだ。いや、実際には息を殺し、跡をつけるようなことはしなかったが、
「(初心者支援してたときのこと思い出すなぁ)」
傍らで同じよう息を殺し歩みを進めるミィアをちらりと見やる。彼女が身にまとっているのは、胴装備こそ少し装備レベルの高いものだったが、腕装備や脚装備はゲーム内でミコッテに支給される初期装備そのものだ。どうしても、最近ゲームを始めて、いくつかのクエストをこなし、ようやくレベルも上がってきた頃合いの初心者冒険者に見えてしまう。
「(サスタシャまで辿り着いた子達にPT戦闘のノウハウ教えたりしたよな)」
ちょうど新しく実装されたコンテンツも落ち着いて、ゲーム内がナギ期に入った頃にはよくそういったことをやっていた。試しにフィールドモンスターと戦ってみて、もしパーティーでの戦闘に問題が有りそうなら助言をする。勿論、向上心の有る初心者相手だからこそ出来ることだったが、有り難いことに、真面目に話を聞いてくれる子達の方が多かった。
彼女に腕試しの提案を持ちかけたのも、彼女がどれくらいのレベルの冒険者なのかを知りたいが為だった。
「(ゲーム内のNPCは、けっこうレベルとかクラスに関係なく装備着れてたからなぁ)」
もしかしたら名うての天才格闘少女かもしれない。いや、もしそうなら先ほどキキルンの群れに追い詰められるようなことは無かったのかもしれないが……。
閑話休題、彼我の距離はもうかなり縮まっていた。こちらから先制攻撃を仕掛けるには調度いい頃合だろう。
「それじゃあ俺が敵を釣るから、ここで待ってて」
「……分かりました」
FF14におけるパーティー戦闘は、タンクが敵を釣り、DPSがそれを攻撃し、ヒーラーがタンクを回復する、これが基本だ。タンクは少し離れた場所から遠隔攻撃でファーストアタックを取る。敵がこちらに反応し、近寄ってくるところを擦れ違い、敵の背中が味方の方を向くように位置取る。DPSの職種が格闘士……モンクならば、背面指定・側面指定された攻撃を指定通りに当てればダメージボーナスが入る。そういったボーナスをDPSが稼ぎやすくするためでもあるし、前方範囲攻撃などを行う敵だった場合、それを後方に位置取るヒーラーやキャスターに当ててしまわないためでもある。
俺が選んだ職種、剣術士……そしてナイトは、そうやって敵の動きを抑制し、攻撃を一身に受けるタンクというロールだ。今まではずっとソロで行動していて、敵を釣ったりだとか、ヘイトを集めたりだとかしなければならない事は無かったが、こうしてミィアというパーティーメンバーが増えたのだから、俺もタンクという仕事を全うせねばならない。
「(よし、行くぞ)」
攻撃の一手目はまず遠隔攻撃だ。そして、ナイト及び剣術士の遠隔攻撃といえば、シールドロブだ。相手めがけ、その手に持っている盾をブーメランのように投げつけるというものだ。盾を装備していなければ扱えないスキルだが、今の俺はしっかりと盾を左手に構えている。その手に力を込めた俺は、
「(くらえっ! シールドロブ!!)」
ぶん、と大きなものが風を切る音が響く。力いっぱい振り抜いた左手から放たれた盾は果たしてそのまま水平に飛び、
「!!」
鈍い音を立て、最後尾を歩いていたキキルンの後頭部に当たる。そして、
「…………」
そのキキルンは、盾が地面へ落ちると共に、ゆっくりと大地へ倒れ伏した。
何事か、と前を歩いていたキキルンがこちらを振り返り俺を見るのと同じように、ミィアも信じられないものを見るような表情で俺を凝視していて、
●
「(なんで今この人盾投げたんですか……!!!??)」
●
いや、その、ちがくて。という思いを伝えるまもなく、キキルン達が甲高い威嚇の声を上げる。
「(やってしまった……!!!)」
つい、気持ちが入りすぎてしまった。気持ちが入ったというか、心がエオルゼアに行っていたというか、いや俺は今現在、身も心もエオルゼアに居るのではあるが。なんというか、初心者支援をしていた頃に思いを馳せていたら、あたかも自分自身がゲーム中のプレイヤーキャラクターであるかのような感覚になってしまっていた。
確かにそうだよな、投げつけられた盾が後頭部に当たればとても痛いし、当たり所が悪ければああなるだろう。なんせ鉄製でそれなりの重さをしているのだ。そして、いくらブーメランのように投げたとしても、目標に着弾した盾が不思議な力で俺の手元に帰ってくることは無い……。
「ええと、その」
「……言い訳は後でちゃんと聞いてあげますので!」
今はその優しさが心に痛い。というか恥ずかしい。だが、本当に今ここで言い訳をするわけにはいかないだろう。
「ああ、後で聞いてくれ……!!」
少し耳の先が熱くなっていることを感じつつ、地面へ落ちている盾のもとへと走り寄る。その下に重なり合うよう倒れているキキルンは、指先が痙攣していて少なくとも死んでいる様子ではなさそうだった。
残るキキルンはあと二匹。こちらに向かい、威嚇するよう鋭い爪で宙を切り裂いている。
格闘士であるミィアは間合いが狭い。いくらキキルンの背が低く、腕が俺たちと比べて短かろうが、あの爪を掻い潜りその拳を届かせるのは難しいかもしれない。先ほど、彼女が崖上で追い詰められていた時も、キキルンの振るう鋭い爪に手を焼いているように見えた。ならば、
「(俺がその隙を作る……!)」
左手に持った盾を構え直し、それに身を隠すようにしてキキルンに近づく。先日出会った剣術士から譲り受けた盾がスクトゥム型で良かった、そう思う。大型の盾がゆえに挙動は遅くなるが、身を守る確実性が大きいことに安心を感じることができた。
盾を構えやおら近づいてきた俺に、キキルン達は爪の猛威を奮ってくる。微かに弾きそこねた攻撃が腕を掠めたが、大した衝撃ではない。そのまま俺は、向かって左のキキルンに盾ごと体当たりを食らわして、
「ミィア!」
体当たりをくらい尻餅をついた仲間を心配するように、そちらを見やった残りのキキルンに向けて剣を振るう。ただ振るうのではなく、キキルンが纏うじゃらじゃらとした装飾に剣先を引っ掛けるようにして剣を振り抜けば、果たしてその剣先に引っ張られたキキルンは俺の背後に放り投げられた。そして、その投げられた先では、
「っ!!」
後ろに控えていたミィアが、拳でその身体を確かに捉え、打ち抜く。身体の中心を穿たれたキキルンは、小さな鳴き声を一つ残し、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。それを視界の隅で確認した俺は、残る一匹のキキルンに対し剣を縦に振りかぶり、
「ちょっと寝ててくれっ!」
柄の部分でキキルンの横頭を殴りつけた。
「ふう……なんとか増援を呼ばれずに済みましたね」
「ああ、ええと、その、どうにかなってよかった」
「そうですね」
そう答えてくれるミィアの頬を伝うのは戦闘の緊張だろうか、それとも、冷や汗だろうか。拳に握りこんでいたホラを外し、腰に巻かれたベルトに吊り下げる。掌の状態を確かめるように、二、三度手の平を開閉させながら、じっと俺を見てきた。
「……腕試し、ナイトウさんはいかがでした?」
「いや、俺からは何も言うことはないよ。」
倒したキキルン三匹のうち、二匹は俺が倒すに至ったが、最初の一匹は事故みたいなものだ。二匹目を穿った彼女の拳の鋭さを見る限り、このあたりに生息するであろうモンスターに対して遅れを取ることは無いだろう。
むしろ、だ。俺の様子……主に突然盾を敵に投げつけたりだとかする突拍子も無い行動を見た彼女がどう思うか、だ。そもそも食事を共にしていた時から、少なからず不審者を見るような目で見られていた気がしないでもない。先ほどの行為が、彼女にとって俺との決別を促す決定打にならなければいいが……そう思っていると、
「私からも……そうですね、ナイトウさんが居れば、頼りになる……かな? と、思っています」
少し言葉尻は怪しく、小首を傾げながら、言い澱むように紡がれた言葉は、少なくとも否定の言葉ではなかった。それに俺は安堵する。
「よかった。いや……なんていうか、俺は……世間知らずなんだ」
「自覚がお有りだったんですか?」
「えっ」
あっ、と自身の口を両手で塞いだミィアは、こちらから目を逸らしている。口にする必要は無かったと言わんばかりに、彼女の耳までそっぽを向いているのが傍から見ても分かりやすい。
「……俺、そんなに世間知らずそうに見えるか?」
「……お言葉ですが……そうなのかな~って思っていました……」
「やっぱりそうか……」
「ああいえ、でも、先ほどのように、パーティーに守り手の方が居てくれればとても助かりますし!」
攻め手一人では、やっぱり無理が有るなと思っていたところではあるんです、とミィアは続ける。
「(守り手に攻め手、か)」
この世界ではそう呼ばれているんだよな、そう思う。勿論それは、先ほど考えていたパーティー戦闘におけるロールのことだ。ゲーム内では、タンクは守り手、DPSは攻め手、ヒーラーは癒し手と呼ばれていた。それはタンクやDPSなどといった言葉はゲーム外の用語であり、エオルゼアで使用されているものではないようだ。そういった辺りにも気をつけていかないと、さっきのように、周囲に世間知らずだと思われ続けてしまう気がする。
まぁ、それはそれとして、だ。俺は思考を入れ替えて、ミィアに向き直る。
「それじゃあ、このまま盗賊団討伐を目指そうか」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします! 二人ならきっとなんとかなりますよね」
にこ、と微笑まれれば、先ほど世間知らずなどと言われた心の痛みもどこかへ消え去る。少女の笑顔の力には凄まじい効力があるな……などと思っていると、
「よいしょ、っと」
ミィアは早速、俺が放ったシールドロブの餌食となったキキルンを引きずりこちらに連れてきている。それを見た俺も、先ほど殴り倒したキキルンの身体を持ち上げようとし、
「ええと、縄で縛って、銅刃団に引き渡すのか」
「ええ、ナイトウさん、縛るの頼んでいいですか? 私はリンクパールで銅刃団に連絡を」
「ああ、了解だ」
それでは、とミィアは己の背負っていた鞄から、束ねられた長縄を投げてよこしてくる。そして耳元……いや、ミコッテのそこに耳は無い。人ならば耳があるであろう付近に、何かを握りこんだ手を近付けた。ほどなくして聞き馴染みのある音が聞こえてくる。
「(リンクパールは実在しているのか……呼び出しの音も、ゲーム内と一緒なんだな)」
恐らく、彼女の手のひらの中に、リンクパールと呼ばれる通信用の真珠が握りこまれているのだろう。LS……リンクシェルというチャット機能がゲーム内にも存在した。それを簡単に説明すると『距離通話用の魔法の巻き貝』なのだそうだ。NPCがシナリオ中でそれを使用する描写も多々見られる。説明の通り、遠方に居る相手に即座に連絡が取れる、いわば携帯電話のようなものだった。
ゲーム内では、リンクシェルというグループチャットに所属するためにはリンクパールをマスターから渡されなければならない。ただそれは、アイテムとして手渡されるわけではなく、ただシステム的に『グループチャットに加入する』という意味合いを世界観に合わせた表現に変換しているだけだ……と俺は思っていた。ただ、こうして銅刃団に連絡するという手段にも活用されているところを見る限り、この世界ではかなり普及している技術なのだろう。また時間の有るときにでもミィアに、どうやったらリンクパールを入手できるのか尋ねてみるか、そう思う。
「(知らないことを気軽に尋ねられる相手が出来るのはいい事だな……俺の評価が下がるかもしれないけど)」
それはそれ、聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、だ。そんなことを考えているうちに、キキルン三匹を縛ることができた。意識を失っているとは言え、始めて触れる身体の造りをした生き物だ。少なからず手間取ったが、銅刃団に引き渡したとき、彼らプロに縛り直してもらえばいいだろう。
よし、と、膝についた砂埃を払いつつ立ち上がる。丁度ミィアも連絡が終わったようで、
「コッファーアンドコフィンまで来てくれるそうです。そこで引渡しになります」
「ああ、分かった。ありがとう。」
いまだ意識を失ったままのキキルン二匹を両腕に抱え上げる。人よりも暖かい体温と、早い鼓動を感じるということは死んでいるわけではなさそうだ。もう一匹はどうしたものか、と思えば、それはミィアが両腕に抱くよう持ち上げてくれた。
「重たくないか? なんとかして俺が運ぶけど」
「ふふ、甘くみないでください。私はこれでも冒険者ですよ」
んしょ、と早くもキキルンを抱えなおす様子を見ていれば、そう声をかけたくもなる。まぁ、彼女が大丈夫だと言うなら仕方あるまい。ダメそうになってから手を貸そう、そう思う。
「そうだ、聞きたいことが有るんだけど」
コッファーアンドコフィンまでの道のりはそう遠いものではない。その道すがら、俺の知らないことを尋ねてみるか、そう思い声をかければ、
「あ、私も有ります、聞きたいこと」
「ん、なんだ? 答えられることなら何でも答えるけど」
ふむ、とミィアは一つ頷き、こちらをちらりと見る。そして、
「さっき、どうして盾を投げたんですか? 剣術ギルドは新しい守り手の作法を開発したりしたのですか?」
あっ、それか、ええと、と思う。
それについては、本当に長い話になるというか、君に伝えてもいい話なのかどうかも分からないというか、ええと、その。
「……ノーコメントで」
「えー!? なんですか? のーこめんとってなんですか!?」
あっ通じないのか……という知見について深く追求する暇は存在しなかった。
何でもって言ったじゃないですか!?という彼女の気迫に押されつつ、俺はコッファーアンドコフィンへの帰路につくことしかできなかった。
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